今の気分にぴったりのワークアウト

Coaching

運動が心理状態に与えるポジティブな効果は、運動の種類によって異なる。このトレーニングのロードマップに従って、すぐに気分を高めよう。

最終更新日:2021年1月29日
気分に合わせたワークアウト

エクササイズの後に得られる高揚感は、エンドルフィンのおかげだと考えているとすれば、それは間違いではないが正解とも言い切れない。

エンドルフィンは体に負荷がかかった時に脳内に分泌される天然の痛み止めだと語るのは、フィンランドのトゥルク大学とオーボ・アカデミー大学の神経科学者で研究管理者も務めるティーナ・サーニヨキ博士だ。多くの人は、どんな種類のエクササイズでもエンドルフィンを放出できると考えている。だが、サーニヨキ博士によれば、実際は、ある一定の強度または時間のアクティビティに取り組んでいる間にのみ放出され、その強度や時間の基準も人によって異なるという。(サーニヨキ博士の最近の研究により、短時間の高負荷インターバルトレーニングのHIITでは、中程度の負荷のサイクリングを1時間続けた時よりも多くのエンドルフィンが分泌されることがわかった。また、被験者によっては、他の人よりも低い負荷のアクティビティでエンドルフィンの急増が見られるケースもあったという。)

「エンドルフィンは、ある一定の強度または時間のアクティビティに取り組んでいる間にのみ放出され、その強度や時間の基準も人によって異なります」

ティーナ・サーニヨキ博士、神経科学者

だが、心配はいらない。エンドルフィンの分泌量を増やすことは、気分を高め、落ち込んだ気持ちを減らすのに役立つ方法の1つにすぎないのだ。この他にも、「幸せホルモン」を分泌させたり、瞬間的にエネルギーを高めたりなど、ポジティブな反応を促進させるアクティビティに取り組むことで、精神状態を向上させることができる。

今の自分の気分にぴったりの運動がわからない場合は、同じ心理状態を体験したエキスパートが紹介する、以下のガイドをチェックしてみよう。

気分に合わせたワークアウト

1.気持ちが落ち込んでいる時:一定ペースのカーディオ

落ち込んでいるときにエネルギッシュなワークアウトをしたいと考えることはほとんどないと思う。実際、その必要はないので安心してほしい。ニューヨーク大学で神経科学と心理学の教授を務めるウェンディ・スズキ博士によれば、気楽なジョギングや速いペースのウォーキングによって高揚感を得られるエンドルフィンが放出されることはないが、ドーパミンやセロトニンなど、良い気分になれる他の化学物質の分泌は促進できるという。また、ドーパミンはずっと食べたかったものを食べた時、ソーシャルメディアで「いいね!」をもらった時、セックスをした時にも増加し、セロトニンは笑った時や肌に太陽の光を感じた時に分泌量が上昇すると博士は語る。つまり、これらの幸せホルモンと呼ばれる化学物質には、本当に気分を高める効果があるのだ。

どんな種類の有酸素運動でも、効果が出るまでには時間がかかる。スズキ博士は、少なくとも10分間続けることを推奨している。

2. イライラする時:HIIT(高負荷インターバルトレーニング)

怒りをサンドバッグやスラムボールにぶつけた経験がある人は正直に手を挙げてみよう。この記事を読む全員の手が挙がっても、驚きではない。実のところ、エクササイズ中に全力を出しながら「不満や怒りを吐き出す」ことで、エンドルフィン、セロトニン、ドーパミンの3つの分泌が促進され、イライラの対処に役立つとスズキ博士は語る。また、難しいワークアウトを完了させるには集中力が必要になるので、問題から気持ちをそらすこともできるとサーニヨキ博士は付け加える。

ただし、いつもより力を出しすぎるのは厳禁だ。サーニヨキ博士の研究によると、過剰な取り組みは痛みだけでなく、否定的な感情を増やすことがわかっている。基本的に、エクササイズとは体に負荷をかけることなので、あまりにもハードに動いた場合、運動後の充実感だけでは努力が報われた気持ちになれず、がっかりした気持ちになってしまうと博士は語る。自分の限界を把握している人も多いと思うが、まだつかみきれていないという人のために説明すると、ある研究では、最大心拍数の90%以上の状態が週に40分以上続くと、刺激に対する反応が高まり、けがのリスクが増加する可能性があるという結果が出ている。

3. 大きなストレスを感じる時:ウェイトリフティング

マット・フレイザーのバーベルサイクリングよりも速いペースでさまざまな考えが頭の中を駆け巡っているなら、バーベルを手に取ってみよう。「筋力トレーニングは、気持ちを落ち着かせ、思考を『今』に引き戻してくれます。特に、重いウェイトを持ち上げると効果的です」そう語るのは、トラウマや慢性ストレスの治療を担当する認定パーソナルトレーナーで、『Lifting Heavy Things』の著者であるローラ・クダリだ。安全かつ効率的にウェイトを持ち上げるには、自分のフォームと体の感覚に集中する必要があるため、それ以外のことを考える余地が頭の中になくなるとクダリは語る。ストロングマン風に持ち上げなくても、バイセップカールなら1回ごとに二頭筋の収縮を感じるなど、ゆっくりと動いて鍛えている筋肉群を意識すれば、不安な気持ちを落ち着かせるのに役立つとクダリは説明する。

どんな動きに取り組むときも、ステップごとにカウントをしてペースを落としてみよう。たとえば、スクワットのセットに取り組む時は、3秒間で腰を落とし、次に立ち上がって、そのまま1秒間キープする。完了したら、5分間のストレッチ(特に前屈が重要)でクールダウンするか、一定のペースのカーディオを行い、体を「休息と消化」モードに導く副交感神経系を活性化させるのがポイントだ。どちらを選んでも、心と体をよりリラックスした状態にできるとクダリは語る。

さらに、筋力トレーニングが不安症状の総合的なレベルを低下させた研究結果もある。考えられる理由は複数あるが、筋力トレーニングが前述の幸せホルモンを調節するシステムの改善につながり、時間と共にストレスにより良く対処できるようになったことが主な理由として挙げられるだろう。

4. 自己批判的な気持ちになった時:ハタヨガ

力、エネルギー、自信をすぐに高めてくれる姿勢を意味する「パワーポーズ」という言葉を聞いたことはあるだろうか。このポーズのメカニズムはまだはっきりしていないが、研究によれば、両手を腰に置いてまっすぐ立つなどの体を大きく広げる姿勢には、強い気持ちとリスク許容度を高める生理学的かつ行動的効果があることがわかっている。また別の研究では、ヨガのポーズをたった2分間キープするだけでも、自己肯定感とエネルギーが増す効果があるという結果が出ている。

特に気分が落ち込む日には、自分をいたわってハタヨガを試してみよう。このヨガはポーズをキープすることに重点を置いているので、時間をかけて力と安定の感覚に馴染んでいける。

5. 疲れていて不機嫌な時:ダンスカーディオ

一日中コンピューターの画面を見ていて疲れた時や、頭がボーッとして不機嫌な朝には、短時間のダンスパーティーが元気を出すのに効果的かもしれない。

トレッドミルを使った一定ペースのランとは違い、「ダンスに含まれる複雑な動きを覚え、上手く踊るためには、相当の努力が必要になる」と、ミッドウェスタン州立大学で運動トレーニングと運動生理学の准教授を務めるスーンミ・チェ博士は言う。「ダンスステップの組み合わせを習得するには、練習、集中力、記憶力が必要になることから、処理速度の向上につながります」言うまでもなく、お気に入りの曲に合わせて踊ることは、多くの人にとって楽しい時間になるので、たった10分間でも気分を変えられる可能性があるとチェ博士は語る。

ここで紹介したアクティビティで気分が良くなることは科学的に証明されているが、何か別のことがしたいと感じたなら、自分の気持ちを優先させよう。どんな気分の時も、エンドルフィンの急増効果があろうとなかろうと、何もしないよりは好きなエクササイズに取り組むほうがずっといい。

文:アデル・ジャクソン=ギブソン
イラスト:ジョン・クラウゼ

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公開日:2021年2月1日

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