ワークアウト前のドライスクーピングは安全か?

食事

インターネット上で流行している「ドライスクーピング」という間違った栄養の摂り方は真似してはいけない。その理由を、管理栄養士に詳しく説明してもらった。

最終更新日:2022年11月14日
この記事は7分で読めます
プレワークアウトのドライスクーピングは安全か?

栄養補助食品の世界では話題が尽きない。 というのも、健康増進やワークアウトの効果を高めるのに役立つと称する栄養の摂り方や栄養補助食品が次々と現れるからだ。

インターネット上で広まるそうした話の1つが、プレワークアウトパウダーをそのまま摂取する「ドライスクーピング」だ。これは科学的根拠がないだけでなく、極めて深刻な結果を招くことがある。 プレワークアウトパウダーを水などに混ぜずに摂取する「ドライスクーピング」が健康に関するフォーラムや会話で蔓延している。その主張によれば、エネルギーをより速く吸収でき、よりハードなトレーニングをこなせるようパワーアップできるというのだ。

(関連記事:管理栄養士が教える、運動前に食べるといいもの

では、ワークアウト前のドライスクーピングはなぜ危険なのか?

プレワークアウトパウダーのドライスクーピングが危険な理由は主に3つある。

1つ目は、粉末を摂取することからくる誤嚥(ごえん)のリスク、2つ目は粉末の成分(主にカフェイン)の摂取量、そして3つ目のリスクは、成分表示に透明性が欠けていることだ。 これが危険な行為だという理由は他にもある。どんなサプリメントの摂取でも同様だが、たとえばこうした製品には規制がなく、特にアスリートにとっては、スポーツをするうえで安全ではない場合もあるのだ。

リスク#1:誤嚥

ドライスクーピングの動画を見ると、人々がプレワークアウトパウダーを液体で薄めずに摂取している。 このやり方の背景には、パウダーを一口で飲み込めば、カフェインやクレアチン、ビタミンB、アミノ酸といったサプリの成分の効果が最大化されるという考え方がある。

粉末を水なしで摂取する問題の1つは、誤嚥のリスクだ。 誤嚥とは、医学的な定義では、食物などの異物が気管に入ってしまうことだ。 誤嚥は肺炎に発展する危険や、肺組織の瘢痕化の可能性をもたらす。

リスク#2:1食当たりのカフェインの過剰摂取

プレワークアウトパウダーの誤嚥のリスクに加え、ドライスクーピングの危険性は、カフェインなどの興奮剤の摂取量にある。 米国食品医薬品局によれば、1日に約400mgのカフェイン摂取(コーヒー4~5杯に相当)は安全と考えられているが、この数字は人によってかなり開きがある。 たとえば子どもや青少年の場合、米国小児科学会はカフェインを摂取しないよう勧めている。

(関連記事: ワークアウトの前後にコーヒーを飲むメリット

遺伝的特徴、食習慣、基本的な健康上の問題、ライフスタイル。こうした要素すべてが、個人のカフェイン代謝能力に影響する。 成人向けの400gという摂取量は、人によって適量であったり、多すぎたりとさまざまだ。特に心臓病を抱えている人にとっては危険な量であることもある。 平均的なプレワークアウトサプリメントには、カフェインが1食当たり300mg含まれている。この量は「安全範囲」内ではあるが、こうしたサプリは通常、液体と共に時間をかけて摂取するものであり、ひと息で飲み下すことが想定されていない。

約300mgのカフェインが含まれているプレワークアウトパウダーをドライスクーピングすることは、コーヒー3杯分を一気飲みするようなものだ。 カフェインを摂取すると、心拍数の上昇、不安感、めまい、脱水症、頭痛などの悪影響が起こりうる。 こうした症状は心と体の健康にとって望ましい状態ではもちろんないし、ワークアウト中やワークアウト後に感じる気分としても良いものではない。

リスク#3:成分に関する透明性や規制の欠如

プレワークアウトサプリメントはとてつもないエナジーや集中力をもたらす、筋肉の成長を促すなど、幅広い効能を謳っているものが多い。 一般的なサプリメントは粉末タイプだが、カプセルや液体のものもある。 注意すべきなのは、栄養補助食品が(FDAのような)管理機関によって規制されていないことだ。 つまり、医薬品と違い、ボトルの中身がラベルに表示された成分と一致しているかどうかを確かめる監視の目がないのだ。 こうした製品の効能や純度の審査も義務化されていない。

成分や純度、効能に関する規制がないことに加え、多くのプレワークアウトサプリメントには独自配合の成分が含まれている。 米国栄養評議会によると、「独自配合とは、栄養補助食品の成分を特定の目的のために処方し、独自に調合したもの」だ。

栄養成分表示ラベルに「独自配合」とあり、その成分の名前は記載されているが、配合量は記載されていないのを見たことがあるかもしれない。 すでにカフェインやビタミン、ミネラルを摂取していたり、処方薬を服用している人は特に、自分のサプリメントに含まれる成分の量を知ることが重要だ。 プレワークアウトサプリメントと一緒に摂取すると有害な副作用が生じる恐れがあるビタミンが、ナイアシン(ビタミンB3)だ。 ほとんどのブランドのプレワークアウトサプリメントにはこのビタミンが配合されているため、毒性の危険にさらされる恐れがある。

2019年に『Nutrients』に発表されたレビューによると、分析された100種類のプレワークアウトサプリメントのうち半数近くで、ナイアシンの含有量が推奨栄養所要量を超えていた。 もしも、ビタミンB複合体のサプリメントやナイアシンを含むマルチビタミンをすでに摂取しており、プレワークアウトパウダーに含まれるナイアシンの量を知らなかったとしたら、過剰摂取による望ましくない副作用(肌の紅潮、頭痛、めまい、血圧の低下など)につながりかねない。

サプリメントの純度や効能については、第三者機関による審査も必要だ。 こうした製品を探すには、パッケージで第三者機関のラベルを確認するとよい。 特に重要なラベルはNSF Certified for Sport認証だ。成分表示と中身が一致していることが試験済みであり、多くの主要な競技団体で禁止されている200超の薬物を含んでいないことを示している。

結論

残念ながら、ワークアウトで驚きの成果をあげる近道やコツはない。

確実に効果のあるワークアウトをするための最善の方法は、バランスのとれた食事、十分な水分補給、そして十分な睡眠を取るようにすることだ。

プレワークアウトサプリメントを使ってエクササイズをしたいなら、必ず用法・用量を守り、水などと一緒に摂取しよう。 同じアドバイスは他のワークアウトサプリメント、たとえばプロテインパウダーにも当てはまる。 ワークアウトサプリメントの種類を問わず、すばやく摂取することが有益だとする研究はほとんどないし、自分自身で試すのも危険が大きすぎる。 栄養やエクササイズに関するアドバイスで信頼できるのは熟練の専門家のアドバイスであって、動画やSNSの投稿ではないことを肝に銘じておこう。

文:シドニー・グリーン(理学修士、 管理栄養士)

プレワークアウトのドライスクーピングは安全か?

トレーニング効果を最大限に引き出す栄養摂取術

心身を鍛えるアドバイスや、栄養に関するヒントが満載。専門家のコーチングを無料で手に入れよう。

公開日:2022年11月1日

関連するストーリー

ワークアウトの後に飲みたい、専門家おすすめのリカバリードリンク

食事

エキスパートがすすめるワークアウト後に最適なリカバリードリンク

ピクルス液は体に良いか? その秘められたメリットについて管理栄養士が解説

食事

ピクルス液は体にいい? 管理栄養士が潜在的なメリットについて解説

管理栄養士が解説:ワークアウト後におすすめのヘルシーなリンゴレシピ5選

食事

栄養士に聞く、運動後におすすめのリンゴを使ったヘルシーレシピ5選

ワークアウトの前後には何を食べるべきか

食事

専門家が推奨する、ワークアウト前後の食事方法

食後のランニングにはどのくらいの時間を空けるべきか?

栄養

食後のランニングにはどのくらいの時間を空けるべき?