バーチャルマラソンを完走するための思考法

Coaching

ゴールラインを駆け抜ける感動。そこに観衆や他のランナーは必要ない。目標に向かってモチベーションを高めれば、バーチャルなレースでも大きな達成感が味わえる。

最終更新日:2020年12月21日
バーチャルレースへの心構え

今年のレースが続々と中止になったことで、興味深い現象が起こっている。目標を見失ってトレーニングをやめてしまうのではなく、自分で独自のレース計画を立てたり、目当ての大会に代わるバーチャルレースに参加したりするランナーが増えているのだ。Running USAのジェフ・マトローCEOによると、現実のレースに登録していたランナーの約30%がバーチャルに移行しつつある。2020年以前のバーチャル大会は、せいぜい参加者1万5,000人が限度だった。それが今では、5万人もの参加を見込んでいる大会もあるという。

だがRunning USAが実施した「2020年の国内ランナーに関する調査」では、こんなデータも出ている。バーチャルレース(一定距離を走るレースにオンラインで参加登録し、自分の都合の良い時に走るイベント)を完走する体験が、本物のレース体験に匹敵すると感じている人はわずか7%。だからまずは、バーチャルレースが本物のレースと別物であることを認めよう。ただしレースの実施方法に大きな問題がある訳でもない(Nike Run Clubなどのランニングアプリは正確に走行距離を計測できる)。真の課題は心理面にある。仲間や観衆の声援がなく、競争相手も不在の状況で、集中を保ちながらレースを完遂するモチベーションの維持が難しいのだ。

「他人が作ったルールに縛られず、自分でレースのルールを決められること。これがさまざまな意味で解放感をもたらしてくれるのです」

クリス・ベネット
(Nikeグローバルヘッドランニングコーチ)

しっかりと取り組めば、これまでなかった刺激をバーチャルレースに見い出すことができる。そう話すのは、認定メンタル・パフォーマンス・コンサルタントのレニー・ウェイト博士。自身もオリンピック出場経験があり、最近初めてのバーチャルレースに参加したばかりだ。「私自身がレースの主催者であり、参加者でもあるという感覚。自分ですべてをコントロールしているという実感によって、パフォーマンスが格段に向上する可能性があります」と博士は言う。Nikeグローバルヘッドランニングコーチのクリス・ベネットも同じ意見だ。「他人が作ったルールに縛られず、自分でレースのルールを決められること。これがさまざまな意味で解放感をもたらしてくれるのです」

モチベーションを保ちながら目標に向けて努力し、バーチャルレースを存分に楽しむ方法をご紹介しよう。

バーチャルレースへの心構え

01. 考え方を変える。
「レースに参加する目的は、自己証明であることがほとんど。つまり自分の意思で目標を定め、それを達成することで充足感を得たいから。だからこそバーチャルレースは、究極の目標となりえるのです」とウェイト博士は言う。

理由を説明しよう。ウェイト博士によると、バーチャルレース向けたトレーニングでは、ランをサボりたいという衝動が頻繁に生じる。これはバーチャルレースが、強制力のないイベントであることも一因だろう。だが最大の理由は、レース自体の重要性がさほど差し迫ったものに感じられないため、トレーニングで距離を重ねる意志が弱まってしまうこと。だから長距離を走り続けるためには、とても強い意志が必要なのだ。この悪条件に屈するのではなく、逆に自分のモチベーションとして活用できるように頭を切り替えよう。「たった1人でも、マラソンやハーフマラソンを完走できる。これは本当に傑出したメンタルの持ち主である証拠です」とベネットは言う。

それでもバーチャルレースにやりがいを見いだせない人はいるだろう。ウェイト博士のお勧めは、まずレースに参加するモチベーションをリストアップすること。観衆がいなくても、完走の記念品がなくても(メダルを郵送してくれる主催者もいるが)、自分で設定した目標を追いかける自体に意味があるのだと自分に言い聞かせる。自分の目標を追うのだから、他者の助けや強力などは必要ない。

02. 距離を再検討する。
秋のフルマラソンにエントリーしていたからといって、秋にどうしても42キロを走らなければならない決まりもない。まずは自分の状況を見直してみよう。スケジュールをトレーニングで埋め尽くしている人もいれば、以前ほど体を動かせていない人もいるだろう。だからそのときの自分が楽しめる距離を選ぶことが重要だ。自分のスピードをチェックする5キロレースでもいいし、体への負担が少ない10キロレースでもいい。バーチャルレースは、本物のレースよりも強い気持ちがなければトレーニングを続けられない。自分の心をかきたてるレースを選べば、継続的にトレーニングに励んでレース自体も楽しめるようになるとウェイト博士は助言する。

03. 計画は変更しない。
自分で計画が立てられるからといって、好き勝手に変更できると勘違いしてはいけない。「計画の変更を禁じておかなければ、何かと理由をつけてトレーニングを回避してしまうかもしれません。スタート時間や予定ルートを厳密に守ることで、バーチャルなレースがリアルに感じられるようになります」とウェイト博士は言う。そうすることで、レース当日にも余計な緊張を避けられる。7時30分にスタートすると決めたら、7時15分までには外でウォーミングアップをしよう。

04. 新たな困難をイメージする。
「他のランナーや観衆がいないと、集中力を欠いたり、気分が沈んだり、自分を責めやすくなったりします」とベネットは言う。重要なのはイメージトレーニングだ。ゴールラインを切る自分の姿を思い浮かべるだけでなく、突然現れる障害を想定して、どのように乗り越えるかを思い描いておこう。苦しさを乗り越える魔法の言葉は用意しているか。このレースに参加している理由をひとつずつ思い出せるか。誰も見ていないバーチャルレースで追い込まれても、心の準備ができていれば諦めて投げ出す可能性は低くなる。

05. レース前のルーチンを守る。
「レース当日らしい行動をとると、レースに向けた心と体の準備が驚くほどうまく整います」とウェイト博士は言う。シューズとウェアを並べ(ウェアに自前のゼッケンを付けてもいい)、写真を撮ってSNSに投稿する。ヘルシーな夕食をとって早く寝る。起きたらレース直前用の食事をとる。「そうすることで気持ちが高ぶり、レース前にちょうど良い緊張感が得られます」とウェイト博士。バーチャルだからといって、すべてを1人で完結させる必要もない。壁にぶつかりそうな場所がわかっていたら、そこにあらかじめ友人や家族の応援ゾーンを設定してみよう。

06. 自分にご褒美を与える。
ロンドンマラソン後の冷たいビールや、シカゴマラソン後のシカゴピザなど、わかりやすいご褒美を考えておこう。ウェイト博士は、バーチャルレースの後、トレーニングパートナーと犬を連れて近くの公園に行った。ワインを飲みながらのんびりと完走を祝ったのだ。「レース後の楽しみやご褒美を思い浮かべれば、自分がチャレンジしている理由を思い出し、努力は最後に報われるのだと信じることができるでしょう」

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公開日:2020年11月11日

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