自己ベストのマラソンを達成するには

Coaching

トレーニングを重ねたら、次は練習を本番に生かす番だ。レース前の数日間を最大限に活用するためのアドバイスを紹介。

最終更新日:2021年10月19日
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マラソンを完走するためのチェックリスト

マラソン大会に出場する。それだけでも十分称賛に値する。さまざまな調査によると、マラソンを一度だけでも走ったことのある人は人口の2%に過ぎないそうだ。これまでに、長距離ラン、リカバリーラン、筋力トレーニングなど、ハードなトレーニングを積み重ねてきたあなたに、トレーニングプランの仕上げに役立つ、専門家のヒントを紹介。大規模なレースに初めて挑むランナーも、マラソンは20回目というランナーも、1kmから42.195kmまで自信を持って走れるようになるだろう。

1. テーパリングの計画を守る

マラソンのトレーニングの計画は通常16週間の長さ(人によって多少異なる)で立て、レースの2、3週間前から1週間前あたりにかけて走行距離を減らしていくと、全米陸上競技連盟認定コーチでStrength Runningのヘッドコーチを務め、The Strength Runningポッドキャストの司会役でもあるジェイソン・フィッツジェラルドは言う。本番に向けてのこの調整を「テーパリング」と言う。最後に行った長距離ラントレーニング(あるいはこれまでの最長距離のラン)で得た力を望ましい状態で発揮できるよう調整する期間で、身体の回復にも十分な期間だとフィッツジェラルドは説明する。また、テーパリングは本番前2、3週間より前に始めると、有酸素能力が失われ始める可能性があると注意する。

フィッツジェラルドによると、テーパリングの期間には、走行距離を減らすだけでなく、有酸素クロストレーニング(サイクリングなど)と筋力トレーニングも減らす必要があるという。全部やめてしまう必要はないが、ワークアウトを短時間に抑え、強度も軽めにする。ランニングについては、ワークアウトの間はいつものペースを維持する。「ハードなトレーニングの量は減らしますが、キレは保つようにします。そうすればマラソン当日も、スピードとコンディションの良さをキープできるだけでなく、身体は十分休息できており、レースで全力を出せる状態になります」とフィッツジェラルドは話す。

2. 本番のウェアを着てリハーサル

シャツやショートパンツ、ソックス、そして特にシューズなど、身に付ける予定のものをすべて大会前に試しておこう。「マラソン当日に着るものは、どれも少なくとも2、3回はトレーニングで身に付け、長距離ランなど本番と似た走りをするときに試しておくことが重要です」とフィッツジェラルドは述べる。ウェアやシューズを試しておけば、当日、肌擦れやマメに悩まされる可能性は低くなるだろう。

原則は、実際よりも5-10度ほど高い気温を想定した服装を準備しておくこと。重ね着しておいて、最初の数マイルで体が温まったらウェアを脱げばいいと、フィッツジェラルドは言う。手放しても惜しくない上着を重ね着しておこう(ランナーが脱いだウェアは回収され寄付されるのが通常)。

3. 慎重にカーボローディング

マラソンランナーなら「カーボローディング」という言葉を耳にしたことがあるだろう。炭水化物はグリコーゲンとして貯蔵され、エネルギー源としてすぐに消費できる。だから多くのランナーがレース前にいつもより炭水化物の摂取量を増やし、グリコーゲンの貯蔵量を最大限に高めようとするのだ。しかし非常にたくさんのランナーが、この戦略を誤解している。残念ながら、カーボローディングは、レース前の数週間にパンやスパゲッティ、シリアルを貪るように食べることではないのだ。

計画的に実行するのが望ましい。大会の3-4日ほど前から食事の70-75%を炭水化物にして、残りをタンパク質や健康的な良質の脂質に当てるとよい。そう話すのは、Precision Nutritionで主任パフォーマンスニュートリションコーチを務める登録栄養士のライアン・マシエル。レース前夜の食事をすべて炭水化物からとると、次の日に身体が重くなるだろうし、あいにくグリコーゲンの貯蔵量が増やせるわけでもない。一晩では効果が現れないとマシエルは言う。

また、トレーニングとして、最長距離を走る前の数日間にカーボローディングを行っておけば、自分に合った栄養補給方法を把握することができると話すのは、米国登録栄養士のモニーク・ライアン。スポーツ栄養士として、持久力を必要とするプロのアスリートやチームにアドバイスを行っている。練習しておけば、スタートラインに立つ前に予期しない事態に戸惑うこともないだろう。

「ハードなトレーニングの量は減らしますが、キレは保つようにします。そうすればマラソン当日も、スピードとコンディションの良さをキープできる」

ジェイソン・フィッツジェラルド
Strength Runningのヘッドコーチ

4. 早めの水分補給

トレーニングの効果を最大に高めるには、常に水分補給が適切に行う必要がある。数週間後にイベントを控えている場合はなおさら。マシエル氏はこう語る。「レースの前夜に水をごくごく飲んでも、それまで十分に水分補給してこなかったことは取り返せません」つまり、脱水状態気味でトレーニングをしていたら、十分な水分を摂取したときと同じレベルの効果は得られないということだ。

レース中は、汗をかいて失った分の水分を補うことが基本だ。「走行中は1時間に約700mL-1Lの水分をとる必要があります」とマシエルは話す。つまり15-20分ごとに約200mL必要という計算になる。一気に飲むのではなく少しずつ、できれば1.5-3kmごとにコップ1杯分ずつ摂取するのがよい。マシエルによると、一気に飲むと水分のとり過ぎになるだけでなく、胃腸のトラブルにつながることもあるそうだ。

マラソン大会では通常、コース上に給水所があるため、水分の携行について頭を悩ます必要はない。たいていは水とスポーツドリンクが用意されているので、事前にコースマップを見て、どのくらいの間隔で給水所が設置されているか、距離の表示はマイルかキロメートルかを確認し(5マイル離れていれば5kmよりかなり距離がある)、それに従って水分補給計画を立てよう。その大会で出される飲み物も確認し、トレーニングでもランニング中にそれと同じスポーツドリンクを試しておく。そうすれば本番で電解質を補給したくなったときも、胃がドリンクを受け付けるとわかっているので安心だ。

5. 前日夜の荷造り

レースの朝は4時か5時に目が覚めてしまい、うまく走れるか、開催地やスタートブロックにたどりつけるかなどと不安になるかもしれない。こういう緊張を和らげるには、寝る前に必要なものをすべて用意しておくとよい。衣類やシューズ、ヘッドホン、エナジージェルやグミ状の補給食、水分、ゼッケンと安全ピン、寒いときに羽織るもの、荷物預け用の袋、モバイルバッテリーなどだ。こういう行動自体がレース前日の儀式になり、気持ちを落ち着かせてくれると話すアスリートは多い。

6. 眠ることにこだわらない

大会前日にぐっすり眠れればそれに越したことはない。だが、実際によく眠れる可能性はごくわずかだと、カリフォルニア大学サンフランシスコ校ヒューマンパフォーマンスセンターの研究医であり、Nikeパフォーマンスカウンシルのメンバーで、トップアスリートの睡眠とパフォーマンスを専門に研究しているチェリ・マー医師は言う。冷静な性格の持ち主だと自ら宣言するランナーでも、不安と興奮で寝つけないことはよくあることだ。

ぐっすり眠るために効果的な方法は、いつものルーティンで徐々に気持ちを落ち着かせることだ。本を読む、日記を書く、ストレッチをするなど、リラックスできて、もう眠る時間だと体に知らせることなら何でもいいと、マー医師は話す。「気持ちが興奮状態にある場合は、考えを整理するために気持ちを落ち着かせるルーティンの時間を長くします。ベッドに入って45分たっても眠れないときは、いったん起き上がって、別の部屋で読書やストレッチなどをして、就寝前のルーティンをやり直します。これで少し疲労を感じたら、ベッドに戻ります。眠れないのに何時間も横になったままでいるのはよくありません」

たとえ夜よく眠れなかったとしても、慌てる必要はない。一晩眠れなかったくらいでペースが乱れることはないからだ。「最も重要なのは、レース前の数日間や数週間でしっかり睡眠をとっておくことです」とマー医師は話す。また、レース前の1週間は睡眠を優先させることが推奨される(これが睡眠に関するこの章のポイント)として、マー医師は次のように語っている。「最低7時間の睡眠が必要ですが、8-10時間眠ることを目標にしましょう。特に慢性的に睡眠が足りておらず、睡眠負債が蓄積している場合はこれが必要です」

7. レース当日の朝食に何を食べるかを把握しておく

スタートの2時間以上前に朝食を食べられるよう早起きできるなら、いつも通りのバランスの良い食事をするよう、マシエルは言う。カロリーの半分以上(最大75%)を炭水化物から摂り、4分の1をタンパク質から、残りを体に良い脂質から摂る。たとえばナッツバターを塗ったバナナトースト。ゆで卵を添えるのもおすすめだ。

そこまで早起きしたくない人は、この食事の少量バージョンを、スタートの1時間前にとろう。スムージーでもいいとマシエルは言う。また、全粒粉など、複合糖質が豊富に含まれているものを必ず摂取しよう。複合糖質は分解に時間がかかるため、ランニング中にもうひと踏ん張りしたいときに栄養素が血流に達するはずだ。たとえば、オート麦、ピーナッツバター、ベリー類に豆乳または牛乳を混ぜたシェイクがうってつけだ。

マシエルによると、脂質や食物繊維が多いもの、油っぽいものは避けるべきだ。こうした食べ物は消化に時間がかかるため、胃に負担がかかり、ランニング中に胃腸のトラブルを起こすことがある。

何を食べるにしても、長距離ランの前に何度もその食事を試しておいて、それが自分に合うという確信を持てることが重要だ。マシエルは次のように忠告している。「レース前に新しいものを試してはいけません。それまでの数か月間のトレーニングで練習してきたことを実践しましょう」

8. レース中(とレース後)の効果的な栄養補給

エネルギーの補給はきわめて重要だ。怠れば走り出して2時間ほどで、貯蔵されていたグリコーゲンが枯渇する。マラソンでいえばレース中盤あたりだ。こうなるとライアン曰く「ハンガーノックに陥ってしまう」、そしてペースを保てなくなる。

これを避けるには、1時間に30-60gの糖質を補給する必要があると、ライアンは言う。「ナトリウムも1時間あたり250-500mg必要」と、マシエルが付け加える。糖質とナトリウムの両方を摂取できるのは、ジェルやグミ状の補給食、スポーツドリンク、プレッツェルのように糖質が豊富で塩気のあるスナックなどだ(好みのスナックを携帯しておいたほうがよいかもしれない)。ここでも、トレーニングの長距離ランでいろいろなエネルギー補給源を試しておくと役に立つ。効果的な補給源はランナーによって異なるからだ。

ゴールラインを通過し、喜びに浸った後は、1-2時間以内にバランスの取れた食事をしっかりとるべきだとマシエルは話す。これにより、リカバリーのプロセスに素早く移行し、除脂肪筋肉量を維持できるそうだ(ただし残念ながらそうしても、数日間は階段を降りるのがつらくなるのは避けられない)。

9. 呼吸を意識する

走行中は息を吸うときにお腹が膨らみ、息を吐くときにお腹がへこむように深い呼吸に集中するのがよいと、『Breathing for Warriors』の著者であり、臨床心理士のベリサ・ブラニッチ心理学博士は述べている。

この腹式呼吸により、肺が酸素を取り込むスペースが増え、浅い呼吸の数回分の酸素を一度に取り込めるため、呼吸を効率よく続けられるようになるとブラニッチは説明している。より深く吸って吐くことで、最も必要なときにより多くの酸素を筋肉に運ぶことができるため、ペースを維持したり上げたりすることが可能になるのだ(ゴール前のラストスパートも可能)。「呼吸をコントロールすることで心拍数も下げることができます」と、Nikeグローバルランニングシニアディレクターのクリス・ベネットも付け加えている。その結果、身体にかかる負荷が減り、持久力がアップして、より長い距離を走れるようになるのだ。

10. レースに集中する

42.195kmを走るために身体を鍛えるのと同じように、心の準備を整えておくことも必要だ。まずレースコースを調べておこう。坂や急カーブはあるか、コース沿いに観客が集まるか、人が少ないルートか。事前によく調べておくことが、安心につながる。

レースの前には、きつい坂を自分が軽快に上っているところや、最後の数十メートルを全速力で走っているところをイメージするようにすると、コースを攻略する自信がわいてくる。「イメージを思い浮かべることで、ストレスや不安を減らし、最大限の力を発揮するのに最適な心構えができることが、研究で明らかになっています」こう話すのは、筋力とコンディショニングの認定スペシャリストで、パフォーマンスコーチを務める、Nikeトレーナーのブランドン・コリンスワースだ。

レースで快走するには、ゴールラインに到達するところを思い浮かべ、「自分は速い、自分は強い」のように自分を励ます言葉を繰り返す。この方法には科学的な裏付けもある。『Sports Medicine』誌で発表されたレビューによると、自分がタスクを実行しているところを想像したり、それを実行するという目標を設定したり、また、声に出して自分に語りかけることで、競技に必要な持久力を高められるそうだ。また、学術誌『Perspectives on Psychological Science』で発表されたメタ分析では、自分に話しかけることでパフォーマンスも改善する可能性があるという研究結果が出ている。自分を褒めることでランニングのきつさをそれほど感じずにすむことも、学術誌『Medicine & Science in Sports & Exercise』に発表された研究が示唆している。


だからぜひ声に出そう、「自分ならできる」と。

文:アシュリー・マテオ
イラスト:マーティン・トンゴラ

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公開日:2021年10月19日

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