五感がリカバリーで発揮する驚きの効果

Coaching

聴覚、嗅覚、視覚、味覚、触覚には、ワークアウトからの回復を早める効果があるという。さっそく1つずつ試してみよう。

最終更新日:2020年12月23日
五感を刺激してリカバリーを促進する方法

ヨガスタジオやスパに足を踏み入れると、生き生きとした植物を目にしたり、リラックスできる音楽が聞こえたり、気持ちが落ち着く香りがしたりすることが多い。これらはすべて、雰囲気作りのためだけにあるのではない。科学的な研究結果によると、ある風景、音、匂いなどには心拍数や血圧の上昇、筋肉の緊張を和らげる効果があり、心と体をリラックスさせるのに役立つというのだ。

「感覚に働きかけることで、戦うか逃げるか反応をつかさどる脳の部位を落ち着かせ、休息と消化を可能にする副交感神経系に切り替えやすくします」そう語るのは、国際神経科学イニシアチブ基金(GNIF)のエグゼクティブディレクターを務めるシャヒーン・E・ラクハン医学博士だ。

特にトレーニングにおいては、五感のすべてがリカバリーに影響を与えかねない。ここでは、それらの利点を活用するための方法を紹介する。

効果のある精油の香りを嗅ぐ

「MRI解析では、良い香りには脳の複数の部位を活性化または不活性化させる効果があることがわかっています」ラクハン博士は語る。博士が主導したこのテーマに関する研究の結果は、『Pain Research and Treatment』誌に掲載されている。「アロマセラピーで精油の香りを嗅ぐことで、不安、筋肉の緊張、不眠症、吐き気、さらには痛みまで和らいだケースがあります。これらの症状が、すべて脳のさまざまな部位に関連していることが理由です」(だが、精油は上に挙げた問題を治す薬ではないので注意。定期的に症状が出る場合は、かかりつけ医に相談すること。)

研究によると、ワークアウト後に特定の香り(具体的には、ラベンダー、ユーカリプタス、レモン、ローズの精油)を嗅ぐことは、心拍数や血圧を下げ、体を速やかに回復モードに切り替えるのに効果的だという。また、筋肉痛を引き起こす可能性のある筋肉の緊張を和らげる効果もみられたとラクハン博士は語る。

リビングでも寝室でも、リラックスして過ごすための部屋には、精油を拡散させるアロマディフューザーを置くことをラクハン博士は勧めている。ワークアウト後に自宅に戻らない場合は、ジムバッグの中に携帯用のアロマスティックを忍ばせておこう。

「感覚に働きかけることで、戦うか逃げるか反応をつかさどる脳の部位を落ち着かせ、休息と消化を可能にする副交感神経系に切り替えやすくします」

シャヒーン・E・ラクハン医学博士、国際神経科学イニシアチブ基金(GNIF)エグゼクティブディレクター

アースカラーを見る

研究では、色に痛みと感情の状態を左右する効果があることが示されている。ラクハン博士によると、「赤は最悪の色」だという。これについてはさまざまな学説があるが、博士は、血や有毒植物など、生物学的な警告信号が赤であることが理由だと考えている。つまり、赤の色は、戦うか逃げるか反応を刺激してしまう可能性があるのだ。その一方で、青、緑、ニュートラルカラーは自然を連想させるため、気持ちを落ち着かせる効果があるとされる。『SAGE Journals』誌に発表された研究では、青には血圧を下げる効果がみられたと記されている。これを考えると、自宅のジムの壁を思い切って空や海をイメージした色に塗ってみるのもいいかもしれない。せめてそのような色のヨガマットを選んでみよう。

色だけでなく、部屋の装飾もポイント。「植物は癒やし効果のある光波を放つため、自分が過ごす環境に植物を置くことで、リカバリーに良い影響を与えることができます」ラクハン博士は語る。実際、部屋に自然の写真を飾るだけでも効果があるという。イギリスのブラッドフォード大学で環境音響学の教授を務めるグレゴリー・ワッツ博士の研究によると、医療センターの待合室に屋外の風景のウォールアートを飾ったことで、そこで待つ人々の不安が和らぎ、落ち着きのレベルが上がったという。また、植物と自然の写真には心拍数と血圧を下げる効果もあるため、合わせて置けばリカバリー時間の短縮につながる。

五感を刺激してリカバリーを促進する方法
五感を刺激してリカバリーを促進する方法

落ち着いた音楽を聴く

多くのマッサージ療法士が施術中にクジラの歌を流すのを不思議に思ったことはないだろうか。ワッツ博士の研究によれば、岸に打ち寄せる穏やかな波の音には、気持ちをリラックスさせる効果があるという。『Medicine and Science in Sports and Exercise』に発表された2018年の研究では、R&Bであれジャズであれ、自分が心地良いと感じるゆったりと落ち着いた音楽には、ダウンレギュレーション、コルチゾール値と心拍数の低減、スピーディーなリカバリーを促す効果があるとされている。また、「体を曲のリズムに合わせることで、呼吸の速度を落とし、より速やかに静止中の状態に戻せる場合もあります」イギリスのシェフィールド・ハラム大学でスポーツ&エクササイズ科学の上級講師を務めるレイトン・ジョーンズ博士は語る。

落ち着いた音楽のプレイリストを作成したら、曲を頻繁にアップデートして退屈やマンネリ状態を防ごう。その理由は、同じ曲ばかり聞いていると、次第にプラスの効果が弱まってしまうこともあるため。そう説明するのは、ブラジルのサンパウロポーツ科学科博士研究員で、2018年の研究を主導したマルセロ・ビグリアッシ博士。最大限の効果を得たいなら、ワークアウトの直後に聴いてみよう。

食事をしっかり味わう

「より意識的に、ゆっくりとリラックスして食べ、料理の風味を味わうようにすると、消化が促進されます」栄養精神科医で、コロンビア大学の精神科の臨床学准教授を務めるドリュー・ラムジー博士は語る。風味とは、自分自身に栄養を与え、楽しむという脳の体験だというのだ。さらに、研究では、ペースを落としてよく噛んで食べることで、栄養吸収力が上がり、より長く満腹感を持続させる効果があることが示されている。

味気ないプロテインバーを慌ただしく食べる代わりに、ワークアウト後は健康的でおいしいスナックやドリンク、食事を選び、ゆっくりと味わってみよう。ラムジー博士のおすすめは、ピーナッツバター、バナナ、カカオ、シナモン、氷、ケフィアを混ぜたスムージー。速いペースで流し込んでしまう人は、タイマーを20分にセットして、それ以前に飲み切ってしまわないように調節してみよう。

軽いタッチでアプローチする

「人間の皮膚にはさまざまな種類の神経細胞があって、それぞれが異なる深さのタッチに反応します」こう語るのは、ニューヨーク市のマッサージ療法士でLia Bonfilio Massageの創設者であるリア・ボンフィリオ氏。「多くの人々にとって、副交感神経系を刺激して心身を静止状態にするには、深くまで圧力をかけるよりも、触れているかどうかほとんどわからない程度の軽いタッチのほうが効果的です」

静止状態と血液の循環の両方を促進するため、ボンフィリオは次のようなマッサージを勧めている。まず、床の上で横になり、両脚を上げて壁につける。腰が楽に感じられるなら、どんな角度でも構わない。両手を熊手のようにして、膝からヒップに向かって指先でほんの軽くなぞるように動かす。ロープをたぐるように、手を交互に動かすこと。好きなだけ繰り返したら上半身を起こし、今度は足首から腰に向かって同じような動きをする。

ミックスして五感を刺激

リカバリー効果を最大限まで高めるには、同時に複数の感覚に働きかけることをラクハン博士は勧めている。たとえば、ローションにローズオイルを数滴加え、やさしく肌をマッサージすれば、嗅覚と触覚に働きかけることができる。ブルーやベージュの壁の部屋に観葉植物のサンセベリアを飾り、クラシック音楽をかけ、スムージーを飲めば、五感を刺激しながら心身を癒す準備は万端だ。

五感を刺激してリカバリーを促進する方法

レベルアップさせよう

エキスパートが提案する考え方、運動、食事、リカバリー、睡眠に関するガイドをさらに見るには、Nike Training Clubアプリをチェック。

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公開日:2020年11月6日