ONE ON ONE : 多田修平×小池祐貴×山縣亮太

Athletes*

この夏の大会を終えたアスリートたちが、彼らの道のりやスポーツの未来を語る『ONE ON ONE』。第2弾は、男子400mリレーの多田修平、小池祐貴、山縣亮太。頂点を目指すスプリンターたちが語る個性とチームワークの関係とは?

最終更新日:2021年9月8日
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ONE ON ONE : 多田修平×小池祐貴×山縣亮太

悲願である世界の頂点を目指した男子400mリレー決勝。東京の大舞台でスタートラインに立った日本最高のランナーたちは、結果的にゴールすることなく試合を終えた。

勝つための一手が功を奏する場合もあれば、結果に結びつかない場合もある。それがスポーツであり、すべてのアスリートたちが日々直面している当たり前の現実だ。ほんの少しのズレが、0.01秒の差が勝負を分ける。

インタビューに現れた多田修平、小池祐貴、山縣亮太の表情は、驚くほど明るく、力強かった。いつだって全力を尽くすことを恐れない彼らの眼差しには、もう確かに次のスタートラインが映っているのだ。

志を共にするライバル、失敗と成功を繰り返すことのできる仲間–––2020年以降、その存在自体が励みになり、自分もレベルアップしてしまうような、そんな誰かがいることを忘れてしまいがちな日々が長く続いている。けれど、彼らが語った個性とチームワークの物語は、きっと私たちの日常にも新たな勇気をもたらしてくれるに違いない。

–––このリレーのチームでトレーニングを始めたのは、いつ頃でしたか?

Tada:山梨の合宿でしたよね。
Yamagata:そうだね。日本選手権が終わってから7月9日に合宿入りして、10日からみんなで練習始めたんじゃないかな。

–––その短期間でどうやってチームワークを築いていくんですか。

Yamagata:普段から試合で顔会わせたりしてるしね。

Koike:日本は、国内でみんな転戦して、日本選手権まで調子つくってやっていくので、お互いの取り組みのプロセスはずっと見えている状態なので、合宿で急に「仲良くなろうぜ」みたいな感じにはならないですね。もともとお互いのことを競技を通じてよく知ってるので。そこは、割とすんなり行きますね。

Tada:普段から結構みんな仲がいいので、元からの信頼関係っていうのはあるのかな。どうでしょうか?

Koike:この人は、いつも時間5分10分遅れてくるからそろそろ来るだろうみたいな感じですよね(笑)。

Yamagata:誰のはなしをしてるんだろう(笑)。今回のメンバーは、走順は違うけど世界リレーで一回組んでるしね。

ONE ON ONE : 多田修平×小池祐貴×山縣亮太

–––そのプロセスの中でも団結力が増したなって感じる瞬間はあったりするんですか?

Tada:何かいい意味でいつも通りというか。もちろん気はみんな引き締まってましたけど。

Koike:合宿で集まって、初めて「リレーで金メダル狙うぞ」とか共通の目標が共有されるので、普段は個人のことしか考えないでやっているけど、そこで「リレー頑張ろう」っていう気持ちにはなりますね。

Yamagata:今回は大会に入ってからもね、桐生とかすごいさ、リレーにかけてたって......あるじゃん。ああいうのを見たときに「勝たなきゃね」と思ったね。

Tada:確かにそれはそういう感じありましたね...... 苦しいですね。

Yamagata:苦しいね。でも、気持ちが引き締まる何かがあったと思う。

–––個人競技で目標を狙っていくのと、チームメートがいてみんなで一緒に同じ目標に向かっていく感覚は違うものですか?

Yamagata:僕は、今回個人ではあんまりいい走りができなかったんですけど、それとリレーはやっぱり別でしたね。いい走りしてベストを尽くして「リレーは金メダルを取るぞ」っていうのを信じて準備できたと思います。

Koike:リレーに関して個人と何が違うかってなると、やっぱり究極はお互いのこと信じられるか。受け手の走者が後ろの走者をどれだけ信じられるか。技術的な話ですけど、受け手の走者がどれだけ思い切り加速ができた状態でバトンをもらえるか、ってところになってくる。そういった意味では、個人と違って後ろの人の走りを気にするところが普通は出てきちゃうんです。そこを後ろの人がどんな走りしようとも、絶対届けてくれるからって信じて思いっきり出る、自分の中に集中して出られるかどうか。個人だったら自分の中に集中するのが当たり前だけれども、リレーは自分の中に集中するのがすごく難しい。そういったところはだいぶ違うなと思います。

–––今回のリレーのチームを表すとしたら、どういう言葉で表現しますか。

Yamagata:シナジーですね。これ、いいところで言おうってずっと思ってたのに、結局メディアの前で1回も言わなかった(笑)。

Koike:性格的にもタイプが違う人が多かったんで、他の人の振るまいや、走りを見て刺激をもらうみたいな部分が多々ありましたね。そういう意味でシナジー、相乗効果という言葉はぴったりじゃないのかなと思います。どうですか、多田さん。

Tada:(笑)その通りだと思います。合宿でシナジーっていうリレーチームとしての目標を決めたんですけれど、1人の選手としては、みんなそれぞれ違う個性を持った選手なので、お互いを見ながら自分のものにできるものはしていって、高め合いながらやっていくっていうことを意識したかなっていうふうに思います。

–––お互いの性格とか、ランナーとしてのパーソナリティをそれぞれお聞きしてもいいですか?

Koike:多田くんは......スタートですごいもう前に出ちゃって、周りのことが一気に視界から消えるというか。いい走りしてる時って本当に自分しか見えてない、自分の視界に誰もいなくて最後まで気持ちよく走ってるんだろうな〜って。僕は後半上げるタイプなので自分とは見てる景色が違うんだろうなって思いますね。

Yamagata:性格的な話になるんですけど、多田くんはすごい社交的なんですよ。自分は彼と比べてどっちかっていうと自分の世界に入っちゃうタイプの人間なんで、彼の振る舞いとかを見て、ちょっと自分も頑張るぞって刺激をもらったりしてますね。

–––山縣選手をお2人から見るとどうですか?

Tada:いい意味でマイペースだなと。さっき社交的って言われたんですけど、僕は、ほかの人に合わせてしまっている時もあって。山縣さんは本当に自分の芯を貫いてやっているというか。僕は、あんまり自分の世界に入れるというのが少ないのでうらやましいというか。山縣さんの勝負強さは、その性格から来ているのかなというふうに思います。

Koike:山縣さんは、インタビューの発言を見てても、周りから求められていることを察する能力がすごく高い人だなって思ってます。僕は、聞かれたら思ったことをそのまま答えちゃって「ああ〜」っていう空気になることが多いんで。

Yamagata:いい意味か悪い意味かわからないですけど(笑)。周りの目を気にしてしまう所もあるし、でも最後はものすごくマイペースな部分があるというか、自分の芯があるっていうのも自分自身思いますね。それがいいように出ればいいんですけど、ネガティブに出ちゃうとちょっと損だなって思うこともあるんですけど......そういう性格なんでしょうがないですね。

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–––小池選手はどうでしょう?

Yamagata:小池くんは、大学の後輩なんで普通に話もするんですけど、理知的で、ものすごく考えている選手だなっていうのがまず一つ。あと、合理性を追求している選手なんですけど、ものすごく情熱的な一面も持っているんですよ、彼は。結構ポーカーフェースなんでそういうふうに見えない時もあるんですけど、でも僕は知ってるんです。垣間見える彼の熱さを。ちょくちょく出るんですよ、日本選手権に勝った時とか。それが何かいいなって思って見てます。

Tada:陸上の知識がもう半端ないですね。例えば食事の面で、これくらいのエネルギーを摂ったらこういうところに活きてくるよとか。僕、個人的に増量を目指してるんですけど、増量をするためにはこういうことをしたらいいっていうのをすごく知ってる選手です。本当に陸上に対して熱血というか。普段ね、すごくなんか嬉しくなさそうな表情とかするんですよ(笑)。でも、実際は内に陸上に対して芯があるというか、そこに向かってもう日々すごい努力している感じがする選手です。本当に尊敬する選手ですし、そういう知識の面も見習いたいなっていう部分はすごいありますね。

–––それはあえて隠しているんですか?

Koike:あまり表に感情を出していいことないなというのが僕の考えなので。プライベートは別ですけどね。普通に楽しいことは楽しいし、休日に家で映画とかドラマを見て1人で号泣したりするぐらい感性は死んでないんですけど。だけど陸上は、ある種仕事でもあるので。あんまり感情を入れるのは良くないなって。社会人になってからはより気をつけるようにしています。

–––では、この夏の大会の話に移っていきたいと思うんですが、リレーのチームとしては、どのような意気込みで臨まれたんですか?

Yamagata & Tada:金メダルです。

Koike:細かい技術的なところとか、数字のデータとか、そういったものは日本の陸連の代表コーチの方がプロフェッショナルなので、その人たちの指示や意見を僕らは信じてやるだけなので。仕事、プロ意識っていうんですかね。自分のやるべきことに集中してっていう。

Yamagata:個人をしっかり走れる状態にするっていうことと、それぞれのバトン合わせ、それぞれの受け渡しのクセとかもあるからそこをしっかり確認するっていうことに尽きますね。

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–––話し合わなくても「金だよね」っていう共通認識があったんですか?

Tada:あまり口には出さなかったですね。選手村とかで過ごしてる時も口にしなかったです。目指してるところは一緒なので。

–––日本のチームとして世界にアピールしたかったことは何かありますか?

Yamagata:僕らは、どうしても個人の走力がまだアメリカなどの強豪国に比べると劣ってしまう部分があって、それは否定できないんですけど、それでも個人種目とリレーの違い、さっき言ってたお互いの信頼感やバトンワークをアピールしたかったっていうのはありますね。

Koike:陸上界では、日本のバトンはすごいって認識は共通してみんな持ってくれてて。僕らがサブトラックでバトン合わせしてる時、周りの人たち全員静かに見てるんです。ただあまり国籍だとか考えすぎちゃうとコンプレックスみたいになっちゃうところもあるので。僕の中では、あくまでフィールドに立ったら平等だと思っています。

Tada:一緒だと思いますね、戦うことに関しては。普通に勝つぞっていう気持ちだけでもうすごいシンプルです。

Koike:あとは結果ですよね。結果出したぞ!メダル取ったぞ!ってなれば、こういうところが日本は優れていたよね、っていう話になるんですけど。

–––今回、走ってみていかがでしたか。

Tada:僕は、初めて出たんですけど、やっぱり違う舞台だなっていうふうに改めて感じました。もちろん走力の違いというのを見せつけられましたし。100メートルに関しては自分の力を出し切れずに終わっちゃったので。大きい舞台で力を発揮するのは大変だし、もっともっと勝負強さが必要なのかなって改めて感じました。

Yamagata:僕はこのメンバーでまた走りたいっすね。どっかで。それだけです。

Koike:この夏の大会が、世間にとってどれだけ大きい意味を持つのかは、延期したのを含めたこの2年ですごく感じましたし、個人での自分の実力不足は、はっきり感じました。けど、リレーに関しては届くと思うんですよね、このメンバーで。ちゃんとバトンをつないで走ればいけるっていうのは決勝のレース後に動画とか見ても思ったので、その気持ちは一緒です。もう一回組んで世界大会で走りたいです。

ONE ON ONE : 多田修平×小池祐貴×山縣亮太

–––最後に、団結することや、チームワークの大切さについて教えてください。

Tada:僕の個人的な感想にはなるんですが、個人だとちょっと心細いっていう感覚がない訳ではなくて。リレーも緊張はもちろんするんですけど、みんなと戦うっていうことにすごい安心感を感じましたね。信頼できる仲間がいるからこそ、心の中に自信も溢れてきますし、より自分のパワーを引き出せるというか。そこがやっぱり個人と仲間がいることの違いなのかなって思ったりしました。

Koike:もともと個人競技でみんなやっている中で集まって、個々の力を全員発揮できるかどうかがリレーなので、お互いにストレスのないような形で生活を送れるかとか、バトン合わせの練習ができるとか、ガチガチに気を遣ってるわけじゃないですけど、なんとなくそれがベストだなっていう空気はあります。トラックの外だと、今日もマネージャーが来てくれたり、練習の時もコーチがいたり、遠征の手配してくれている人がいたり、意外と動いている人が多いので、ある程度結果を出したり、どこかに到達できたときにちょっと冷静になって振り返ると、やっぱり1人ではここにたどり着けなかったなっていうことは、すごくあるんですね。1人であのときのままやっていたら、確実にこんなところに自分はいないなってものすごく強く思うので、仲間は大事だなって。すごくありがたいなって思います。

Yamagata:さっきシナジーっていうワードが出たんですけど、僕は、今回のこのチームは1人1人の個性が尊重された、ものすごくいいチームだったなと思っているんです。すごくのびのびとやらせてもらってもらったし、チームメンバーだけじゃなく、サポートスタッフの人たちも、それぞれの個性を重んじてくれた部分が今回すごく大きかったからこそ、チームメートを信頼して走れた。だからチームではあるんですけど、それぞれの持っている個性をしっかり発揮できる環境をつくれることが、ものすごく大事になってくるのかなと思います。


[CREDITS]
—Words: Ai Ito
—Photography: Yosuke Demukai
—Illustration: João Lavieri
—Film: Hideyuki Ishii
—Animation: Daniel Semanas

公開日:2021年9月8日