ランニングが体に与える影響

健康とウェルネス

多くの人にとって、ランニングは健康維持の欠かせない一環だ。 寿命が延びたり、ストレスや病気のリスクが減ったりといった効果が期待できる。

最終更新日:2024年1月30日
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ランニングが体にもたらす効果とは

健康を維持する方法はたくさんあるが、中でもランニングの人気は高い。 なぜなら、ほぼすべての人ができるからだ。 初心者か経験者かを問わず、ほとんどの人がランニングシューズを履いてジョギングに出かけることができる。

トレッドミルで走ることも、屋外に出てトラックやトレイルを走ることもできる。 ハーフマラソン出場を目指してトレーニングすることも、1kmから走り始めることもできる。 どのような走り方を選んでも、身体面・精神面のメリットを受けながら、健康を増進させることが可能だ。

それでは、ランニングが体にどのような影響を与えるかを見ていこう。

ランニングが体にもたらす効果とは

ランニングがもたらす体の健康へのメリット

  1. 1.心臓の健康増進の効果

    2018年11月に学術誌『Frontiers in Physiology』に掲載された論文によると、ランニングをする人はしない人に比べて、心臓が強く、肺の機能が優れている傾向がある。 ランニングをする人は安静時の心拍数が低く、酸素摂取量と心拍出量(心臓が1回の拍動で送り出す血液量)が多い。

    心肺系の状態が寿命や疾病リスクの指標として使われることを考えると、ランニングがもたらす効果の意味は大きい。 実際、学術誌『Heart』に掲載された2013年4月の論文では、安静時の心拍数が1分間に10回増加するごとに、死亡リスクが16%上昇することが示されている。

    心拍数が高いということは、心臓への負担が大きいということである。 運動中に心拍数が増えるのは当然だ。 だが、安静時でも心拍数が高い場合、心臓が1回の拍動で十分な血液を送り出せていない可能性がある。

  2. 2.コレステロールを下げる効果

    ランニングなどの運動をすると、低密度リポタンパク質(LDL、いわゆる「悪玉」コレステロール)を血液から肝臓に移動させ、排泄する働きのある酵素が刺激される。

    ジョギングはいわゆる「善玉」コレステロール(高密度リポタンパク質、HDL)の増加も促す。 1982年3月に学術誌『Journal of Cardiac Rehabilitation』で発表された画期的な研究によると、毎週走っている距離がHDLコレステロール値に直接関連している。 この研究結果は、その後の研究によって裏付けられた。

    2013年4月に学術誌『Blood Pressure』に発表された論文では、コレステロール値が改善すると、血栓、脳卒中、高血圧、心臓病のリスクが減少することが明らかになっている。

  3. 3.メタボリックシンドロームを改善する効果

    ランニングは、コレステロール以外にも、血糖値や中性脂肪、血圧、体重など、メタボリックシンドロームを改善する効果がある。

    2021年4月に学術誌『Sports Medicine』で発表されたメタ分析によると、有酸素運動を1回行っただけで、インスリン濃度が有意に低下し、グルカゴン濃度が上昇した。 その結果、健康状態の一指標である血糖値が正常に保たれるようになる。

    また、2000年1月に学術誌『International Journal of Sports Medicine』で発表された研究では、運動後16時間以上にわたってインスリン感受性の上昇が認められた。 インスリン感受性の低下は、インスリン抵抗性とも呼ばれ、2型糖尿病や肥満の前兆となる危険な状態とされている。

  4. 4.減量効果

    減量を目指す人にとって、ランニングは、エネルギー消費を増やすことでカロリー収支をマイナスにできるという効用がある。 Harvard Health Publishingによると、体重70kgの人が時速8kmで走ると、1時間あたり576カロリーを消費する。

    HIIT(高負荷インターバルトレーニング)のような方法でランニングをすると、終了後も運動後余剰酸素消費(EPOC)の状態になり、カロリー消費が継続する。 休息やアクティブリカバリーの時間を取りながら全力でスプリントを行うと、ワークアウトの後安静状態に戻るまでの時間が長くなる。

    また、ランニングやジョギングを継続して行うと、筋肉量が増える。筋肉は脂肪よりもエネルギー(カロリー)消費が多いので、安静時の代謝率が増加する。 さらに、脂肪を落としながら筋肉をつけると、体組成(体脂肪と筋肉の比率)が改善される。

  5. 5.骨密度を高める効果

    骨は弱ってくると、もろくなり、折れやすくなる。 この現象は特に高齢者に多く見られる。なぜなら、人間の骨量は30歳でピークに達し、加齢とともに徐々に減少していくからだ。 加齢による骨量減少に対抗するには、定期的な運動が有効だ。

    運動によって抵抗を受けると、体は骨密度を高めて自分を守ろうとする。 2019年2月に学術誌『Journal of Exercise Rehabilitation』で発表された研究では、長距離の持久走によって骨形成マーカーの増加が認められている。

  6. 6.免疫系を増強する効果

    ランニングをすると、心拍数と体温が上昇する。 心拍数の上昇は血流の増加をもたらし、気道から細菌を取り除く効果があることが、2020年7月に学術誌『Clinical and Experimental Medicine』に掲載された論文で明らかになっている。

    また、MedlinePlusによると、深部体温が上昇すると、感染症と闘って細菌の増殖を防ぐ力が増す。 また、白血球と抗体の数(両方とも免疫力の指標)が増加することが、2013年2月に学術誌『World Journal of Experimental Medicine』で発表された研究で示されている。

ランニングが体にもたらす効果とは

ランニングがもたらす心の健康へのメリット

  1. 1.気分を盛り上げる効果

    「ランナーズハイ」という言葉を耳にしたことがあるだろう。走った後に生じる高揚感のことだ。 この現象には科学的な裏付けがある。

    走っていると、気分を高揚させるエンドルフィンが分泌される。 エンドルフィンには、痛みの感覚を鈍らせ、ポジティブな気持ちを引き起こす、モルヒネのような鎮痛作用があることが、2015年1月に学術誌『Frontiers in Psychology』に発表されたレビューで示されている。

    また、2016年1月に学術誌『Frontiers in Psychology』で発表された研究によると、ランニングを行うと、脳内の快楽・報酬系に作用して気分を高めるドーパミンも分泌される。

    ランニングの効用は短期的な気分の高揚にとどまらない。2018年6月に学術誌『BMJ Open Sport and Exercise Medicine』で発表された研究によると、気分障害の人を対象に12週間のランニングプログラムを実施したところ、うつや不安の症状を軽減する効果が認められた。

  2. 2.認知機能を高める効果

    ランニングをしていると、脳を活性化する脳由来神経栄養因子(BDNF)が分泌される。 2017年4月に学術誌『Frontiers in Psychology』で発表された研究では、認知障害のある成人グループの実行機能が有酸素運動によって向上することがわかった。

    ランニング中に体と脳の血流が増加すると、脳に送られる酸素と栄養の量が増加する。 その結果、神経発生(新しい脳細胞の生成)が促進される。

    さらに、ワークアウトを定期的に続けると、脳内で学習や記憶に関連する領域の海馬の大きさが実際に増大することが、2011年2月の学術誌『Proceedings of the National Academy of Sciences』に掲載された論文で明らかになっている。

  3. 3.ストレスを軽減する効果

    どんな運動にもストレス軽減効果がある。 ランニングの場合は、それ以外の効用もある。 全身を反復して動かすことで、意識を頭から体に移し、「今」を感じてマインドフルな状態にすることができる。

    実際、2018年11月に学術誌『Acta Psychologica』で発表された研究によると、約2〜3kmのランニングをすることで、ストレスが軽減され、瞑想セッションに参加するとき以上に認知能力が向上した。

    大自然の中でランニングをすれば、その効果は倍増する。 2019年9月に学術誌『Mental Health and Prevention』に掲載された論文によると、屋外での運動は、屋内での運動に比べてストレス軽減効果が高く、幸福感を強める効果もある。

ランニングのデメリット

ランニングをトータルで理解するために、デメリットについても知っておこう。 Yale Medicineによると、定期的にランニングをする人の65%が毎年すね痛や関節痛、疲労骨折などの怪我をしている。

ランニングは負荷の高いアクティビティだ。繰り返し衝撃を受けることで、関節が炎症を起こすこともある。 関節炎などの炎症性関節疾患を持つ人は特に注意が必要であることが、2018年10月に学術誌『PLoS One』に掲載された論文で示されている。

また、長距離ランニングと胃腸の問題に関連性があることも、2020年6月に学術誌『Journal of the International Society of Sports Nutrition』で発表された研究で明らかになっている。 心肺系の血流が増えた分、消化器系の血流が減ることで、お腹がゆるくなったり、下痢になったりすることもある。

しかし、そうしたデメリットに怯えてランニングを諦める必要はない。 健康で怪我がない人が、トレーニングとリカバリーのバランスをしっかり取って行えば、メリットのほうがデメリットよりもはるかに多いからだ。

公開日:2021年11月24日