健康を向上させる音楽

Coaching

心と身体を元気にしたいなら、注目の音楽療法が効果を発揮するかもしれない。

最終更新日:2021年4月1日

モーツァルトやベートーヴェンが天才作曲家だったことは周知の事実だが、彼らが数世紀前に生み出した楽曲が、ウェルネス音楽と呼ばれる現在急成長中のトレンドの一部になろうとは誰が想像しただろうか。

英国サウンドセラピー学会の創設者、リズ・クーパーによると、「ウェルネス音楽」とは、研究界では音楽療法としてよく知られ、簡単に言えば聴くだけで気分が良くなるあらゆる音楽のことを指すのだという。もう少し詳しく説明すると、この音楽は、クーパーが「音のビタミン」と呼ぶ、脳と身体に「栄養」をもたらす構成要素で成り立っているのだという。

「音のビタミンとは、低音域やスローテンポなどの作品に使われている小さな特性で、特定の神経学的影響が確認されているものを指します」とクーパーは説明する。これらの影響によって気持ちを落ち着かせたり、より大きな満足感を得られることから、長期的に見た場合には生理学的な恩恵も得られると考えられているのだ。(この生理学的な恩恵については後ほど紹介しよう。)

「音のビタミンとは、低音域やスローテンポなどの作品に使われている小さな特性で、特定の神経学的影響が確認されているものを指します」

リズ・クーパー
英国サウンドセラピー学会の創設者

クーパーと大手のトレンド予測団体は、音楽療法が爆発的なブームの寸前にあると見込んでいる。音楽ストリーミングアプリや瞑想アプリのいくつかは、すでにウェルネス音楽を取り入れているか、今後取り入れることを計画している。また、人工知能を活用し、ユーザーに合わせて癒やし効果のある音楽を提供する新しい技術プラットフォームも近々発表されるという。こうした動きの背景には、人々の切実なニーズが見て取れる。世界的に未曾有の1年を経験した後、自宅で低コストまたは無料で取り組めるリラックス方法や回復方法を求める声がかつてないほど高まっているのではないかとクーパーは予想する。

心と筋肉をほぐす音楽の力

MRIを使った研究では、音楽療法によって大脳辺縁系をはじめとする脳のさまざまな部分が刺激されることがわかっている。「この脳の情動中枢として知られる部分は、血圧、心拍数、呼吸数、心の状態をコントロールする脳の他の部分とつながっています」そう説明するのは、ペンシルベニア大学の麻酔学と救命救急学科の助教授を務めるヴィーナ・グラフ医学博士だ。つまり、癒やし効果のある音楽を聴くと、脳が身体に「落ち着きなさい」と伝えていることになるのだ。

どんな音楽にも、ストレスマーカーを増加または低下させるドーパミンやその他のエンドルフィンなど、神経伝達物質の放出を誘発する力がある。「懐かしさや幸福感、悲しみ、怒りを感じる曲があったり、気持ちを落ち着かせたり、高揚させたりする曲があるのはこのためです」とグラフ博士は語る。こうしたストレスマーカーが低下すると、「変性意識状態として知られる、深くリラックスした状態に入ることができ、眠りに落ちる瞬間や目が覚める直前の温かくて素晴らしい、ぼんやりとした状態を体験できる」とクーパーは語る。また、この状態は、その瞬間に心地良さをもたらすだけでなく、「前向きな気分、不安と筋肉の緊張や痛みの緩和など、さまざまな健康上のメリットと結び付いている可能性があります」と付け加える。

曲に含まれるビタミンが多いほど、ストレスマーカーと炎症を抑えられるとグラフ博士は語る。博士の研究では、音楽療法には瞑想と同じ程度の術前不安を和らげる効果が見られたという。ビタミンが最も多く含まれるのは、BPMが60から80前後、打楽器の音が最小限で歌詞がなく、音の変動が少ない曲だという。(つまり、お気に入りのインディーズバンドの曲ではなく、クラシックやヨガスタイルの音楽だと考えられる。)これらの要素にはすべて、脳と身体を「戦うか逃げるか」モードから「休息と消化」モードに切り替える効果がある。

ビートが段階的に減速するなど、音のビタミンの中には聞き手の心拍数や血圧を即時に下げられるものもある。クーパーの作品の1つにも、そんな効果が発見されている。「サセックス大学のマインドラボでテストされ、緩和を補助する力強い方法だと見なされました。あまりにも効果が高いため、ラジオで流れた時は、運転中の人は車を路肩に止めたほうがいいというアドバイスがあったくらいです」クーパーは説明する。

クーパーとグラフ博士は、音楽療法の効果について、まだ研究が始まったばかりの段階だと口を揃える。フィットネストラッカーのような技術の進歩により、研究者たちは曲を聴いている時の心拍数や血圧などを測定し、どの音のビタミンが最良の結果をもたらすのかを特定できるようになった。現在は、この結果を睡眠、平穏、エクササイズ後の筋肉の回復といった特定の効果を引き出すことに活用している。

音楽療法を活用してみよう

ウェルネス音楽とは、研究によって裏付けられたアンビエント、チルアウト、クラシック、ダウンテンポ、ヒーリングのサブジャンルによって構成されたカテゴリーだとグラフ博士は語る。こうしたジャンルを普段使っている音楽ストリーミングアプリで検索し、不安や考え事から気をそらすのに役立つ曲を探してみよう。また、特定の緩和作用を求めている場合は、以下のヒントを試してみてほしい。

  • ワークアウト後のリカバリー:「研究では低周波の音がより深いレベルの筋弛緩を促進するという結果が出ている」とクーパーは語る。お勧めは、ストレスとエクササイズ後の緊張を緩和させるのに特に効果的なPauaの音楽だという。

  • 寝る前のリラックスタイム:クーパーが推奨するのは、変化の激しい音楽ではなく、サウンドスケープに近い低音域で長めの曲。また、鋭く甲高い音の入った曲は避けよう。夜の音楽としておすすめなのは、クーパー自身が作曲した「Somnus X」という曲だ。この広大なサウンドスケープから始まる曲は、10分近くかけてゆっくりと静まっていく。

  • 即効でストレスを緩和:呼吸のリズムに働きかける曲(この場合は言葉が入っていてもよい)を選べば、脳と身体を休息と消化モードに切り替える力が2倍になる。クーパーが考案したBB1と呼ばれるバランスの取れた呼吸エクササイズには、5分以内に不安な気持ちを落ち着かせる効果がある。

アドバイス:どんな目的で何の音楽を聴く時も、「より没頭できるため、オーバーイヤーヘッドホンを装着するのが望ましい」とクーパーは語る。サブベースの周波数がヘッドホンから筋骨格系に伝わるのが実際に感じられるという。

音楽療法の効果は、曲を聴いてほぼ瞬時に実感することができるものの、1日5分以上聴くことで、その効果は増していく。クーパーは「研究結果には累積的な効果がある可能性が示されています」と説明する。「瞑想やマインドフルネスを実践する回数を増やすように、音楽療法を活用する回数を増やすことで、癒やしのプロセスがより効果的になっていきます。この手法に慣れていくことで、内面のより深い場所に到達できるようになるのです」言い換えれば、モーツァルトの曲で心を落ち着けるのに慣れていけば、より穏やかな境地に達することができるようになるということだ。

文:ケイトリン・カールソン
イラスト:ケジア・ガブリエラ

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公開日:2021年3月29日