神経系を調節する仕組みとは?

健康とウェルネス

ストレスレベルをコントロールするための実用的なヒントをエキスパートが解説。

最終更新日:2023年3月10日
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神経系を調節する仕組みとは?

神経系の調節に関心がある人は、神経系が活力や気分、さらには運動能力に大きく関わっていると耳にしたことがあるかもしれない。 途方に暮れたり体が疲れたり、思い悩んで気持ちが沈んでしまったりということは誰にでもある。 今回の記事は、それらをどうにかしたいと思っているあなたにぴったりの内容だ。

解決法を紹介する前に1つだけ整理しておこう。「神経系の調節」という概念はあまりにも漠然としていてほとんど意味をなさない、というのが神経科学者の見解だ。 基本的に、これは科学的に厳正な用語ではない。

なぜなら、神経系は、体の動かし方、食べ物の消化、記憶の保存、ストレスへの対応など、行動の大半をコントロールしている、組織と細胞で構成された複雑なネットワークだからだ。

神経系を調節する方法

神経系の調節と聞くと、疑問が湧いてくるだろう。具体的に神経系のどの部分を調節するのだろうか?

臨床心理学者でヨガ講師のアリエル・シュワルツ博士によると、専門家が一般的に言う神経系の調節とは、交感神経系(「闘争・逃走」や「行け行け」反応に関連)と副交感神経系(休息と回復に関連)のバランスを調節することだ。

これらの神経系は自律神経系、つまり意識せずに自動的に機能する末梢神経系の一部を構成している。 交感神経系と副交感神経系はどちらも欠かせない。 長らく、交感神経系はストレス反応を引き起こす悪者扱いされてきた。 しかし、走ったり踊ったりする気持ちを生む役割も担っている。 一方、副交感神経系は、翌日からまた頑張れるよう体を休める働きがある。

理想的なのは、この2つの神経系が陰と陽のように調和して機能している状態だ。 しかし、ストレスが続いて交感神経系が活性化し続けると、気持ちが常に張り詰めてしまい、困ったことになる。 2016年に学術誌『Current Neuropharmacology』に掲載されたレビューによると、こうした状態がうつ病を伴う炎症を引き起こす場合がある。 炎症は、多くの研究において以前からうつ病と関連があるとされてきた。

疲れたと感じたら、迷走神経(脳から腸につながっている副交感神経系の一部)を活性化することで、バランスを取り戻すことができると、エキスパートはアドバイスする。 迷走神経は気分のコントロール、心拍数の減少、休息の促進といった役割を担っているからだ。

シュワルツは、「大半の人は、副交感神経系のリラックス反応を引き出す練習をしたことがありません」と述べ、運動能力を最大限に高めるためには十分な休息と回復が必要だと指摘する。 「十分な休息を取らないと、フロー状態やゾーンに入る感覚をつかんだりするのが、より難しくなります」

それでは、迷走神経を活性化させて、気力の充実したストレスの少ない状態を作り出す「調節」方法を紹介しよう。

  1. 1.冷たい水で気持ちを落ちつかせる

    神経系を調節する仕組みとは?

    運動パフォーマンスを高めるという意味での冷水シャワーの効果については健康関連のエキスパートや研究者の間でまだ議論の余地があるが、シュワルツも、UC San Diego Healthの神経学者であるイマニュエル・ラーマン医学博士も、冷水シャワーを浴びることが神経系を調整するうえで最も効果的だと言う。

    「冷水を浴びると、脳の回路が刺激を受けてネガティブな感情を調整し、極度のストレスに対する体の順応性が高まります」とラーマン。

    背景にあるのは、冷水で神経系にストレスを与えた後に回復させるという考え方だ。 冷水を浴びることで、人生のストレスから解放され、疲労困憊の状態から抜け出すきっかけになるかもしれない。

    だからといってこの効果を得るために冷たいプールに頭から飛び込む必要はない、とシュワルツは説明する。

    「冷えたハンドタオルを首に当てたり、顔に冷水をかけたりすれば十分です」 その効果は研究でも裏付けられている。 たとえば、学術誌『JMIR Formative Research』に2018年に掲載された小規模な調査では、首の側面に(電子機器で)1回16秒間の冷刺激を与えることで、心拍数の減少、ストレスの緩和の効果が期待されることが示された。

    (関連記事:ワークアウト後の疲労回復に、氷風呂を試すべき?

  2. 2.深呼吸を練習する

    神経系を調節する仕組みとは?

    「呼吸を調節すると、神経系に直接的に働きかけることができます」とシュワルツは言う。

    交感神経系の呼吸パターンでは、吐く息よりも吸う息のほうを意識する。 酸素をすぐに取り込まなくてはいけない運動時には効果的だが、競争状態にないときは長くゆっくりと息を吐くと良いと説明する。

    長く息を吐くことで、脳は「今は安全だ」という信号を受け取る。安全でなければ、闘争・逃走反応が発生し、このような呼吸をすることはできないからだ。 学術誌『Medical Hypotheses』の論文で示されたように、ゆっくりとした呼吸(1分間に12~14回の平常状態に比べて5~7回)によって血圧が低下した理由も、これによって説明できる。

    息を吸いながら5つ数え、息を吐きながら5つ数えてみよう。 この呼吸法を朝、昼、晩に5分ほどやってみるとよい。 大事な仕事上の会議やワークアウトの後など、特定の時間にこの呼吸法をすると決めておくのも効果的だ。

  3. 3.睡眠習慣を改善する

    神経系を調節する仕組みとは?

    睡眠が不足すると、神経系は大きな打撃を受ける。

    脳は睡眠中に炎症性の毒素を排出するため、睡眠不足は脳内の炎症を引き起こす、とラーマンは警告する。 その結果、疲れやすくなったり、感情のコントロールが困難になったりすることがある。

    夜の睡眠の質を高める方法として、毎日同じ時間に寝起きすること、ベッドでは睡眠と読書以外のことはしないことをラーマンは提案している。 つまり、仕事、スマートフォンやタブレット、スナックをベッドに持ち込まないようにするということだ。

    (関連記事:スポーツ後のリカバリーに睡眠がとても重要な理由

  4. 4.有酸素運動を実践する

    神経系を調節する仕組みとは?

    迷走神経は、運動やその他のストレスに応じて心拍数を調節している。 運動中に心拍数を上げ、終わったら元に戻すというプロセスを繰り返すことで、他の種類のストレスの場合も、ストレスが過ぎ去ったら心拍数を下げられるような体になる。 「目的は、ストレスのかかる出来事が終わったら、速やかにホメオスタシスを取り戻すことです」とラーマンは語る。 「そうしないと、ストレスが慢性化します」

    運動をしている人がストレスや挫折に強いように思えるのは、このような調節ができているからなのかもしれない。 医学雑誌『Lancet』に2019年に掲載された米国人120万人を対象にした研究によると、運動をしている人は、していない人に比べて、精神衛生状態が悪い日が1ヵ月あたり1.5日少ないことが示された。

    そこで有効なのが、有酸素運動だ。 米国心臓協会では、心臓の健康を維持するために、週に1回、中程度の負荷の有酸素運動を150分間、または強度の運動を75分間(またはその組み合わせ)行うことを推奨している。

  5. 5.ぐずぐずしている暇はない。「Just Do It」だ。

    神経系を調節する仕組みとは?

    ところが、そう簡単にはいかない。 脳は危害を加える可能性のあるものを避けて自己防衛するようにできており、回避することでその対象が大きな存在になり、ますます避けたくなるのだ、とシュワルツは言う。 ストレッチのルーティンであれ、面倒な仕事であれ、タスクを避け続けていると、そのタスクが危険な存在であるという信号を脳に送ってしまうことになる。

    恐怖症の克服に疑似体験療法が強く推奨されるのは、そうした理由にもよる。回避対象が危険な存在ではないことを再確認させるのだ。 2017年に学術誌『Journal of Adolescent Health』に掲載された研究によると、心配の種を避けようとすると、かえってストレスホルモンが増えることがある。

    「避けたいという衝動がこみあげてきても、とにかく何か行動してみましょう。そうすれば、その行動が安全でポジティブなものであることが脳に伝わり、神経系レベルで物事が良い方向に向かいます」とシュワルツはアドバイスする。

文:キエラ・カーター

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公開日:2023年3月2日

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